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東京高等裁判所 昭和41年(ネ)551号 判決 1967年6月01日

控訴人 園部義文

同 園部静子

右訴訟代理人弁護士 秋田経蔵

被控訴人 日産プリンス沼津販売株式会社(旧商号 沼津プリンス自動車株式会社)

右訴訟代理人弁護士 土橋義広

主文

原判決中、控訴人等が合同して被控訴人に対し金九三五、〇〇二円を支払うべきことを命じた部分のうち、金九三四、九八八円を超過する金額に係る部分を取り消す。

前項の超過金額に係る被控訴人の請求を棄却する。

その余の本件控訴を棄却する。

訴訟費用は第一、二審とも控訴人等の連帯負担とする。

事実

控訴人等代理人は左記(一)ないし(三)を付加するほか原判決事実摘示のように述べた。

(一)  控訴人等が本件手形を発行したとの事実は否認する。控訴人等は手形用紙に署名捺印しただけの紙片を被控訴人に交付したにすぎず、右交付の目的は自動車買い受け代金支払い債務の担保として預けたものである。従って、白地手形の発行ではなく、未完成手形の交付でもなく、補充権付の手形交付でもない。

白地手形と称しうるためには、少なくとも金額、支払期日が書き入れられた手形でなければならない。署名以外のすべての手形要件―とりわけ金額―の補充を予定した白地手形なるものを認めるが如きは、人の自由生命を売り渡し生殺与奪の権限を他人に委任するという公序良俗違反の行為を是認し、憲法による自由の保障(憲法一一、一二、一三条)を無効ならしめる違憲の見解であって、許すべきではない。

少なくとも、他人との間で未完成手形授受の法律関係を結ぶには、手形金額、支払期日、支払場所、振出日は、法律行為の内容として特定していなければならない。その特定なくして特定内容の代理権授与ありということはできず、無内容の契約を想定することは無意味である。

(二)  仮に未完成手形又は補充権付の手形発行であるとしても、被控訴人が自ら完成ないし補充し、自ら所持する以上は、その完成ないし補充行為は民法の双方代理禁止の法則に違反するから無効であって、手形は依然として未完成、未補充のものである。

(三)  第三者への対抗問題は別箇の観点に立って考えるべきものであるとしても、本件は被控訴人が自ら署名以外の一切の手形要件を記載し、所持人として権利を主張するものであるから、第三者への対抗問題は生じない。

理由

一、当裁判所は、被控訴人の本訴請求を、後記(3)において不当である旨説示する部分を除き、正当と認めるものであって、その理由は、次のように訂正又は付加するほか原判決の理由と同一であるから、その記載を引用する。

一、<省略>そして、前認定の事実と成立に争いのない乙第二ないし第五号証によると、被告(控訴人)園部義文は原告(被控訴人)に対し、(イ)昭和三八年八月三〇日金二〇〇、〇〇〇円を弁済し、そのうち金六一、〇〇〇円は前記第一回の月賦金の支払いに充当され、残りの金一三九、〇〇〇円が第二回の月賦金(その支払方法として振り出された本件(一)の約束手形金)五一六、〇〇〇円の一部支払いに充当されたこと、(ロ)昭和三九年二月一二日金五〇、〇〇〇円を弁済し、それが右第二回月賦金(本件(一)の約束手形金)の残金の一部支払いに充当されたこと、(ハ)同年三月二四日金五〇、〇〇〇円を弁済し、それが同じく第二回月賦金(本件(一)の約束手形金)の残金の一部支払いに充当されたことが認められる。原告(被控訴人)は、右(ロ)の弁済は昭和三九年二月一三日に、(ハ)の弁済は同年三月二五日になされた旨主張するが、証拠上そのようには認められない。

従って、被告等(控訴人等)は原告(被控訴人)に対し合同して、

a本件(一)の約束手形金の残金二七七、〇〇〇円と本件(二)ないし(一三)の各約束手形金との合計金九二五、〇〇〇円、

b本件(一)の約束手形金の一部弁済に充てられた前記(イ)の一三九、〇〇〇円に対する、同手形の満期後である昭和三七年九月一日からその弁済の日である昭和三八年八月三〇日までの手形法所定の年六分の割合による利息金八、二九七円(計数上は上記金額を超えるが、上記金額が請求額である)、同じく前記(ロ)の五〇、〇〇〇円に対する、同手形の満期の翌日である昭和三八年八月三一日からその弁済の日である昭和三九年二月一二日までの右の割合による利息金一、三六三円四〇銭(原告は同月一三日までの利息として金一三六九円を請求するが、上記の金一、三六三円四〇銭を超える部分は不当である)、同じく前記(ハ)の五〇、〇〇〇円に対する、同手形の満期後である昭和三九年二月一四日からその弁済の日である同年三月二四日までの右の割合による利息金三二七円八六銭(原告は同月二五日までの利息として金三三六円を請求するが、上記の金三二七円八六銭を超える部分は不当である)、以上合計金九、九八八円二六銭、

c、前記aの未払各手形金に対する、それぞれその手形の満期又はその後である、各支払呈示の翌日から、その完済に至るまで手形法所定の年六分の割合による利息、

の各支払いをなすべき義務がある。

してみると、原告(被控訴人)の本訴請求中、右a及びbの合計金九三四、九八八円(二六銭を切り捨てる)とcの金額の支払いを求める部分は正当として認容すべきであるが、これを超える部分(右bにおいて不当である旨説示した部分)は不当であって棄却を免れない。」

次にこの判決の事実欄に摘示した控訴人等の主張に対する判断を次のとおり付加する。

「控訴人等の右主張は、本件各手形は控訴人等において手形用紙に署名捺印しただけの紙片を被控訴人に交付したものにすぎないことを前提とするものであるが、成立に争いのない乙第一号証、原審証人山田信寿、同清良治の各証言によれば、本件各手形は、その振出日として記載されている昭和三七年六月一五日に被控訴人会社の社員である山田信寿、清良治が本件売買の目的である自動車を引き渡すため控訴人等方を訪れた際、いずれもあらかじめ金額、満期等の手形要件を記載し振出人の署名欄だけを空欄とした手形用紙一四枚を持参して署名を求めたところ、控訴人静子がその夫である控訴人義文の面前でその指示に従い控訴人両名の氏名を記載し捺印して(ただし捺印は控訴人等に頼まれてその場で右山田、清が代行したものもある)右山田、清に交付したもののうちの一三枚であることが認められ、従って控訴人等の右主張は前提を欠くものであって、失当といわなければならない。

のみならず、仮に本件各手形は控訴人等が手形用紙に記名捺印しただけのものを被控訴人に交付し、被控訴人が後で金額、満期等その他の手形要件を記載したものであるとしても、右交付の当時被控訴人と控訴人等との間に被控訴人主張のような自動車月賦売買又びその連帯保証に関する契約が成立していたことは前記引用に係る原判決の理由で認定されているとおりであり、本件各手形に記載された金額及び満期が右契約において定められた第二回目以降の月賦金の額及びその支払期日に合致することから考えると、控訴人等は補充されるべき金額その他の手形要件の具体的内容につき被控訴人との間で合意をした上で、その補充権を与えて未完成の手形(白地手形)を被控訴人に交付したものであり、被控訴人は右補充権に基づいて金額その他の手形要件を補充したものと推認すべきである。

してみると、右のようにして作成された本件各手形は有効な手形であって、これを無効とすべき理由はみいだし難い。控訴人等は、白地手形と称しうるためには少なくとも金額、満期が記載された手形でなければならないと主張し、また、被控訴人による本件各手形の補充行為は民法の双方代理禁止の法則に違反し無効であると主張するが、少なくとも右に認定した本件の場合のように、補充すべき手形要件の具体的内容につき合意の上その補充権を与えて当該手形要件の記載されていない手形を交付した場合には、たとえその補充されるべき手形要件が金額、満期のような重要な事項であったとしても、これを有効な白地手形の発行と認めて差し支えなく、そして本件の場合被控訴人がその付与された補充権に基づいて補充をなしたものと認むべきことは前に説示したとおりであるから、その補充行為を目して民法の双方代理禁止の法則に違反する無効な行為となすべきでないことは明らかである<以下省略>。

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